『高知市こども劇場 子育ち・親育ち応援プロジェクト』は、全日本社会貢献団体機構 平成28年度一般助成を受けた事業です。乳幼児から中学生までの児童と保護者が対象で、対象年齢に分けてプログラムを組みました。
どのプログラムにも共通するキーワードは『コミュニケーション』。人と人がつながること……そのことによって成長したり、喜んだり、癒されたり、慰められたり、勇気をもらったり。人を何倍も強く、幸せにするこの力を、子どもたちにはもちろん、おとなにも体得して身につけてほしいと願ってプロジェクトを立ち上げました。
プロジェクトは大きく分けて『感じる つながる あそびの時間』と『感じる つながる おやこの時間』の2つに分かれ、それぞれがさらに2つのプログラムを組み、実行委員会体制で事業に取り組みました。
元々こども劇場の活動に息づきながら、このプロジェクトでさらに強まった「子どもとおとながともに育ち合う」精神は、翌年に専門部『みんなぁ育ち合おう部』の誕生に結びつきました。
project.1『感じる つながる あそびの時間』
「あそび」は子どもたちにとって最高のコミュニケーションツール!自分を表現したり、相手の心に歩み寄ったり、ルールを守ったり、人とつながる上で大事なことがギュッと詰まった魔法のツール。
講師にプレイアドバイザーの中市真帆さん、よさこい振付指導等で活躍の田村千賀さんを迎え、参加した子供たちの個性に応じて変幻自在なコミュニケーションワークショップを展開しました。
program.1
小学4年生~中学3年生向けワーク『カン・ガク』
2016年 8月 25日(木)10:00~16:00 高知県立県民文化ホール 第5多目的室
2016年 8月 26日(金)10:00~16:00 高知県立県民文化ホール 第5多目的室
2016年 8月 27日(土)10:00~16:00 高知市中央公民館 9階和室
4名参加
講 師
田村千賀さん・中市真帆さん
内 容
演劇的手法を用いた表現あそびを行いました。最終的に参加者で決めた作品を力を合わせて創り上げ、発表することをワークのゴールとしました。アイデアを出し合い、練り合い、作品が完成に向かっていく喜びを共有しました。それらを通じて「他者と関わっていく自信」、それをささえるひとつの要因になる「自分に対する自信」を体得することを狙いとしていました。
発表作品は「おしばいがしたい」と『中学校ダンス部』の話を考えました。みんなで出し合った「優勝を目指してがんばる話」と「仲間割れのあと仲直りする話」を合体させて練習した後、保護者に発表しました。
参加者はおとなしくて気遣いのできる小学生の女子4人。「自分を出す」までに時間がかかりましたが、最終的には「4人で話し合って決めたい」とお互いを引き出し合うまでに成長。ワーク終了後に別れる際には、互いに認め合えたことに涙する場面もありました。講師より「連続3日間の少人数だからできた、琴線に触れる体験だった」との評をいただきました。
program.2
小学1~4年生向けワーク『めざせ!あそびマスター!!2』
2016年 10月 9日(日)13:30~16:00 高知県立県民文化ホール 第5多目的室
2016年 10月 10日(月祝)13:30~16:00 高知県立県民文化ホール 第5多目的室
19名参加
講 師
田村千賀さん ・中市真帆さん
内 容
あそびを通じてお互いに関心を持ち、ルールを理解したり、考えを伝え合ったり、感情のやりとりやワーク内で起こる出来事をともに乗り越えながら、コミュニケーション力を育みました。
1日目は室内あそび、2日目は屋外あそびを行いました。子どもたちはルールを発展させながら「もっとおもしろく」「もっとみんなで楽しもう」とたくさんあそびを工夫をしました。身体を動かしたり、大きな声で自分の考えを主張して、思う存分楽しんだ子どもたちからは「もっとあそびたい!」「次はいつあそべるの?」という声が聞かれました。「あそびきった」達成感や爽快感を、元気や積極性に変えて欲しいと願います。
保護者は、我が子が友だちづくりに消極的と心配して参加させた方が多かったようですが、あそびに対してはみんな積極的。あらためて「あそび」というもののコミュニケーションツールとしての有効性を実感しました。
project.2『感じる つながる おやこの時間』
こども劇場がこだわって届けている「生の舞台」は、舞台と観客との間にコミュニケーションが生まれる場。演者の伝えようとする心と観る側の受け取ろうとする心、あるいは登場人物に心を寄り添わせてともに舞台の上の人生を生きて共感する心がそこに生まれます。それは得難い「経験」の場でもあり、その人なりの成長と、より豊かな心と人生を与えてくれます。そんな素晴らしい経験にぜひおやこで出会ってもらいたい!と、人形劇にまつわるプログラムを行いました。
program.1
『おやこで観よう!はじめての人形劇 こいぬの兄妹チップとチョコ』
2016年 11月 18日(金)19:00~20:00 ちより街テラス3階 第1会議室
2016年 11月 19日(土)14:00~15:00 高知県立県民文化ホール 第6多目的室
2016年 11月 20日(日)10:30~11:30 高知県立県民文化ホール 第6多目的室
上演作品:人形劇団ひぽぽたあむ『こいぬの兄妹チップとチョコ』
11/18 90名参加・11/19 102名参加・11/20 107名参加
上演作品
人形劇団ひぽぽたあむ『こいぬの兄妹チップとチョコ』
内 容
「ちいさな子どもたちに届けるはじめての人形劇」をコンセプトに、東京より人形劇団ひぽぽたあむを招き『こいぬの兄妹チップとチョコ』を上演しました。未就学のちいさな子どもたちがたくさん参加しましたが、どの子も夢中になって人形劇の世界に没頭していました。ちいさな人たちの感受性の素晴らしさ、受けとめる力に驚かされました。
program.2
永野むつみさん座談会『子ども自身が育む 幸せに生きるチカラ』
2016年 11月 18日(金)10:30~12:00 ちより街テラス3階 第2会議室
2016年 11月 19日(土) 10:30~12:00 高知県立県民文化ホール 第6多目的室
11/18 31名参加・11/19 17名参加
講 師
永野むつみさん(人形劇団ひぽぽたあむ主宰)
内 容
今回上演した人形劇の主催であり、全国各地で子育てに関するお話が好評の永野むつみさんの座談会を企画。 子どもの芸術を受けとめる力やコミュニケーション能力を中心にお話しいただきました。子どもはその洞察力や共感力から、生まれつき自分で幸せをつかむ力を持っている、むしろおとながその力を奪ってはいないか、親自体のあり方についてじっくり考える機会を得ました。永野さん自身の子育てや上演の際に出会う子どもたちの様子など、経験に裏付けされたお話が参加者の心に響いていると感じました。
事業を終えてみて
今回、コミュニケーション力アップワークショップと人形劇プログラムという異なる内容の事業を行いました。共通して感じたことは、少子化の影響かおとなの干渉が強すぎて、子どもたちは自分の力で物事を考えてそれを行動に移す機会を失いつつあること、核家族化や人間関係が希薄になりつつある現代社会の中で、お母さんたちは孤独な子育て環境に追い込まれ、親としての成長が難しくなりつつあるのではないかということでした。これは私たちが日頃の活動を通じて感じていた懸念であり、この事業を立ち上げた理由でもありました。
かつての子育ては親はもちろん、祖父母や近所のおとななどたくさんの関係性の中で行われていました。その中で子どもとともに、実は親の方も育っていったものです。現在は子育て環境もすっかり変わり、かつての環境を求めることが難しくなってしまいました。
だからと言って、私たちは諦めるわけにはいきません。子育ては未来を創る重要な営みなのです。今こそかつての環境に代わる何かを築き上げ、「子育ち・親育ち」を立て直さねばなりません。
今回の助成をもとに、まずは子どもたちが自分で物事に気づき成長していく能力を十分に持っていることを親や子ども自身に知ってもらうこと・経験してもらうこと、子育てについて他人の力やいろんなものの力(ここでは芸術)を借りてみることの有用性と提案を投げかけてみることを行いました。今回の事業の中で経験したことが、少しでも多くの親子の助けになれば幸いです。
事業は単年度ですが、この先も同様の体験を求める人たちの受け容れ先として私たち高知市こども劇場の存在があります。私たちの団体の意義を見直す機会にもなりました。これからも「子育ち・親育ち」を支える活動を続けていきたいと考えています。