文化は人の営みを豊かにするもの、人間にとっても社会にとっても欠かせない必要なものです。「文化・芸術を創造し、享受し、文化的な環境の中で、生きる喜びを見出すことは、人々の変わらない願いである。」と2001年12月公布、施行された文化芸術振興基本法の前文にも謳われ、「子どもの文化権」も保障されました。
高度経済成長期の1960年代、人々は経済的に豊かになることが、幸せにつながると信じましたが、地域のつながりは弱まり、子ども達の遊び場は奪われ、社会環境は大きく変わっていきました。そんな状況の中、未来を担う子どもの育ちを考える大人が集い、子どもに文化を届けたいと、子ども劇場運動は全国に広がりをみせ、1971年に高知市こども劇場も誕生しました。
それ以後、生の舞台にこだわり、子どものためのすぐれた舞台劇、人形劇や音楽の鑑賞を定例化することと、自然や遊びなどを大切に考え、様々な自主的活動を生み出し、子どもとそのまわりの大人とで豊かな時間を過ごすことで、調和のとれた人格の発達を促したいと活動してきました。
今、急速なメディアの発達により、情報はあふれ、知識が先行し、人の育ちを待ってくれません。人との関わりも、外遊びの時間も減り、自分で考えて行動するという機会も奪われています。遊びの中で緊張したり、ホッとしたり、失敗したり、出来なかったことが出来るようになったりの小さな積み重ねがあって子どもは育っていけるのではないでしょうか。テレビやインターネットの画面相手では、ものの重さも、大きさも、温かさも実感できず想像力も育ちません。想像力の欠如は年老いた親の介護も子育ても困難にし、失敗することに慣れていなければすぐに我慢がならなくなってキレてしまったり、自信を失くしてしまったりするでしょう。
育つ環境は変わっても子どもの本質は変わらず、たくましく伸びていきたいという思い、力はみんなが持っているものだと信じています。高知市こども劇場は、子どもの世界を広げる努力をすることが大人の役割だとの思いで、すぐれた生の文化・芸術との出会いの場を保障し、年齢にあった自然や、遊び中心の文化的体験活動の機会を作っていきます。そして、人と人との関わりの中で頭を柔軟に鍛え、心を育て、自主的に行動し、困難な時代を乗り越えていく力をつけてほしいと願います。
法人格という社会的な顔を持ち、活動がより継続的に、社会に向けて広がりを生み、地域の中でつながりを作り、子どもと大人が豊かに育ちあえる環境を整えるという役割を明確にしたいと思います。
2004 年 10 月 16 日
特定非営利活動法人 高知市こども劇場 設立総会にて
設立代表者 北村 絵理
1971年に創立した高知市こども劇場は、社会の一員としての役割をより明確にするため、2005年に法人格を取得しました。この役割を永く担っていくという意志を表明し、市民活動団体として大きく前に踏み出した契機でもありました。それから時は流れましたが、この時大切にしたいと願ったことは、今でもここに生き続けています。